将棋界が学んだ人間とAI(人工知能)の幸福な関係

2018/01/19


       

AIが発達したら人間の仕事を奪われる。
AIの能力が人間を超えたら、人間の尊厳が失われる。

AI(人口知能)の急激な進化により、人間の存在意義を危惧する声が高まっていますが、
ずっと以前からAIへの脅威を身近に感じてきたのが将棋界です。

2005年。
将棋のプロ棋士を統括する日本将棋連盟は、所属するプロ棋士に対して、無断でコンピュータ将棋と公開対局を行うことを禁止する通達を出しました。万が一にもプロ棋士がコンピュータに負けたら大変な名誉失墜になると考えたようです。

当時のコンピュータ将棋はまだ人工知能といえるものではありません。アマチュアには勝ってもプロ棋士には全く歯がたたない程度の強さでしたが、それでも日本将棋連携はそう遠くない将来、コンピュータがプロ棋士を超えると確信していたそうです。

言うまでもなく、将棋のプロ棋士は"将棋が圧倒的に強いこと"を存在意義として收入を得ています。もしもプロがコンピュータに負ける日が来ると、それは将棋界の終焉を意味すると考えていた棋士が多かったはずです。

2017年5月。
最新の人工知能を搭載したコンピュータ将棋「Ponanza」は公開対局で、佐藤天彦名人に圧勝しました。プロの頂点に位置する佐藤名人を筆頭に、現在プロ棋士はAIにほとんど勝てなくなっています。

 

しかし、AIが人間を超えたら将棋界が終わるという予想は完全に外れました。
それどころか現在は、将棋が始まって以来の大ブームが巻き起こっています。

今の将棋フィーバーを巻き起こしているのは言うまでもなく、14歳で史上最年少プロ棋士になった藤井聡太四段の活躍ですが、ブームが起きる下地は何年も前から準備されていました。

ニコニコ動画を運営するドワンゴ社は、2010年に「将棋電王戦」を創設し、プロ棋士とコンピュータの対戦をニコニコ動画で生中継してきました。

将棋道場に行けば分かりますが、強い人の対戦を囲んで観戦するのは非常に面白いものです。ニコニコ動画では人気棋士とコンピュータの対戦を何千人、何万人という視聴者が観戦し、リアルタイムでコメントが流れます。AIに完膚なく敗れ去るプロ棋士の姿にファンは同情し、AIが計算できない奇手を仕掛けて人間が見事に勝てば大喝采を送ります。

少なくとも将棋界においては、
AIに負けたら人間の存在価値はなくなるという心配は見事に外れたのです。
「将棋電王戦」は将棋を知らなかった人も巻き込んで、大人気のコンテンツになります。
そして、動画で対戦をリアルタイム中継するという形は、名人戦や竜王戦など、プロ棋士同士のタイトル戦にも採用されるようになりました。将棋はインターネットの力を借りて新しいファンを獲得しながら、現在の大ブームの礎をつくってきたのです。

2017年7月にNHKが特集した番組で、藤井聡太四段の強さについて面白い考察がされました。

多くのプロ棋士が、藤井四段の将棋がAIと似ていると分析する一方、藤井四段の一番の強さは人間としての勝負強さだといいます。藤井四段は勝負で不利になると、時にはAIが絶対指さないような悪手を指して、相手を惑わし迷わせて最後は勝つ。その人間らしい勝負強さが藤井四段の最大の魅力だというのです。

藤井四段はある番組のインタビューに答えて、こう話しています。


「AIによって将棋というゲームはすごく奥が深まった。人間が将棋のことをより深く理解し、将棋に強くなる道をひらいてくれた。」

この言葉にこそ、AIと人間との幸福な関係のヒントがあるのではないでしょうか。